「世界の涯ての夏」つかいまこと著 を読んだ
「涯て」と呼ばれている地球を飲み込んでいく超常現象が発生している近未来で生きる人間たちを描くSF。かなり読みやすいし、SF的な表現もあまり濃くないので、初心者でもおすすめな感じ。
内容としては、正体不明の多次元からのゆっくりとした侵略を遅滞させる「想起」と呼ばれる記憶再体験が中心となる。あと、ゲームデザイナーの作者と関わりの3dデザイナーのノイ君の辛い辛いパワハラ社畜人生からフリーランス人生を描いていく。
主人公の小学校時代の思い出の一つである、不思議少女ミウちゃんとの交流が、実在の記憶ではないことが徐々にわかっていき、最終的には・・・と気づかさせるのはちょっと面白かった。タキタがフルチンだからタッチンとは・・・
個人的には作者と関わりの深い3dデザイナーのノイ君の話が、結構生生しく描かれていてよかった。
たぶん周りでも生きるのが得意でない人たちを大勢見て来たのか、それとも、じぶんがその一人だったのかわかりませんが、ダメになっていったり、ダメになっていく過程で陥ってしまう間違いとか、結構面白く読めました。
個人的にはパワハラとかは消滅してほしいけども、社内政治とか、人間関係が絡むとどうにも難しいよね。
小学生でも意味なく(深くはふれない)いじめをするし、本質的な生存本能かも。
現代は死んだり死にかけたりってのが、明確にないから、ストレスにさらされること自体が、生命そのものを削る唯一の存在だと思う。だからこそ、そのストレスにさらされないように行動するってのは確かに理に適っているのかな。
あと、もう一転おもしろいなあと思ったのが、ノイ君たちがやっている3dデザイン。
今、ビッグデータとAIを使ってYoutubeとかアマゾンとかでおすすめ表示したりしていて結構効果をあげていると思うんだけど、直感的なものも結局統計に飲み込まれていくのかなあとすごい感じた。
確かに人間が考えてやっているようなことも過去の経験から推測する最適解で、機械はそのあいまいさなんかを感じ取ることができないから難しいとされてきたけど、人間が学習できない量の解を学習して、その中から最適なものをみつけることができれば、意味はどうあれ、それは考えていることになってしまうのかな。
作中でも、3dモデルを作るときに統計からまず形を持ってきて、そこから、人間が違和感が内容に最終調整をするといった話しがあったけれども、これまで、人間が感覚的に良いと判断してきた、芸術や、音楽なんかもいずれは統計的に学習されて、特定の属性を持つ人間に最大限の効果を発揮する統計値によって大量生産されるようになるのかも・・・。
次代とか、知覚しにくい膨大な変数が合って統計からも必ずヒットするものを生み出せるか難しいかなと一瞬考えたけれども、美とか、心地よさとか、盛り上がるかとか、普遍的に良いとされるものはいつの時代も変わらないから、もしかしたら、簡単に実現してしまうのかもしれないね・・・。
そんな技術が出てきたら、大衆はその統計的芸術を受け入れて大量消費していって、ちょっと変わっている音楽通や、芸術通の人たちは、統計的なものからちょっと外した音楽や、芸術をもてはやすようになりそう。キュビズムとか、ポロックみたいな近代芸術みたいに。